2026年5月21日
長島の赤土馬鈴薯、その秘密と魅力
鹿児島県長島町の赤土馬鈴薯は、火山灰由来の赤土と海からのミネラル分、そして地域の気候条件が育む。甘みとホクホク感が特徴で、煮崩れしにくい性質を持つ。他の地域の赤土馬鈴薯との比較や、産地としての課題にも触れる。
長島に根付いた赤土の来歴
鹿児島県の北西端に位置する長島町は、大小23の島々からなる多島美の町だ。1974年に黒之瀬戸大橋で本土と結ばれるまで、長島は離島であった。この地でじゃがいも栽培が本格化したのは、昭和50年代に入ってからのことである。それ以前、長島ではソラマメやキヌサヤエンドウといった豆類が主要な作物だった。しかし、昭和50年(1975年)にカルビーがポテトチップス用のじゃがいも栽培を依頼したことをきっかけに、長島の赤土がじゃがいも栽培に適していることが認識され始める。
昭和55年(1980年)頃には、長崎県の業者が長島の温暖な気候と赤土に着目し、他産地が貯蔵じゃがいもを主体とする時期に高品質なじゃがいもを生産できると見込んで契約栽培を開始した。長島の赤土で育ったじゃがいもは、その新鮮さと肌の美しさから市場で高い評価を得るようになる。これを受け、昭和58年(1983年)頃には地元の農業協同組合も青果用じゃがいもの栽培に乗り出し、作付面積を拡大していった。
平成9年(1997年)には、このじゃがいもが鹿児島県のブランド産地として指定され、地域の基幹作物としての地位を確立する。この間、1996年には長島本島と伊唐島を結ぶ伊唐大橋が架けられるなど、インフラの整備も栽培拡大と流通の円滑化を後押しした。
赤土が育むじゃがいもの特性
長島町のじゃがいもを特徴づける「赤土」は、単なる土の色ではない。その正体は、火山灰を起源とし、酸化鉄を多く含むことで赤みを帯びた粘土質の土壌である。この土壌は、高い保水力と良好な水はけという、一見相反する特性を併せ持つ。じゃがいもの根腐れを防ぎつつ、必要な水分と養分を供給できる点が、栽培において有利に働くのだ。
さらに、長島の赤土には、鉄分や亜鉛といったミネラルが豊富に含まれている。中には35万年前の貝化石が混じり、納豆菌や乳酸菌などの微生物が土壌を活性化させているという指摘もある。 東シナ海や八代海に囲まれた地理的条件も大きく影響している。潮風が運ぶミネラル分が赤土に吸収され、じゃがいもの成長に不可欠な養分となるのだ。
こうした環境で育つ赤土馬鈴薯は、甘みが強くホクホクとした食感が特徴とされる。同時に、肉質がしっかりしており、煮崩れしにくいという性質も持つ。煮物やカレーといった料理に適しているのはそのためだ。主要品種である「ニシユタカ」は、多収性で玉揃いが良く、二次肥大や裂開が少ない点も、長島での栽培に適している。 収穫時期は年に二度あり、年明けに本格化する「秋作」(地元では「早春作」とも呼ばれる)が1月から2月、そして「春作」が4月から5月にかけて行われる。
異なる赤土、共通する理由
「赤土」と名の付くじゃがいもは、長島以外にも存在する。例えば、長崎県の島原半島、特に愛野町では「愛の小町」という赤土馬鈴薯がブランド化されている。 ここでは、火山性の堆積物の上に、対岸の多良岳に由来する玄武岩が風化したミネラル豊富な赤い土を「客土」として運び入れ、栽培を行っている。温暖な気候を生かし、長島と同様に秋と春の二期作が行われる。
