2026/6/14
知内温泉はなぜ「北海道最古」と呼ばれるのか?鎌倉時代からの湯の記憶

知内温泉について教えて欲しい。北海道最古なの??
キュリオす
北海道知内町に湧く知内温泉は「北海道最古」と称される。その根拠は鎌倉時代の古文書に記された開湯伝説や、湯治場としての長い歴史にある。800年以上の時を経て、現代も湯守の伝統と新たな試みが息づく。
湯けむりに包まれた「最古」の問い
北海道の南端、津軽海峡を望む知内町。その山間深く、湯の川渓谷にひっそりと湧き出す知内温泉は、「北海道最古の湯」として知られている。その言葉の響きは、単なる歴史の長さを超え、訪れる者に静かな期待を抱かせる。しかし、「最古」という称号は、一体何を根拠としているのだろうか。長い時の流れの中で、その湯がどのようにして人々に発見され、受け継がれてきたのか。その問いは、湯けむりの向こうに広がる深い森と、古くからの言い伝えの中に隠されているように思える。
鎌倉時代に遡る湯の記憶
知内温泉の歴史は、鎌倉時代にまで遡ると言われている。知内町に伝わる古文書「大野土佐日記」には、元久2年(1205年)に砂金を求めて甲斐国から渡来した荒木大学という人物がこの地で温泉を発見したとの記述がある。そして、宝治元年(1247年)には、その温泉のほとりに薬師堂が建立されたのが始まりとされているのだ。この薬師堂の棟札には、応永11年(1404年)に荒木大学が湯主徳蔵として施主を務めたという銘が最上徳内の「東蝦夷地道中記」に記されており、その当時すでに温泉薬師堂が存在していたことが明確である。
江戸時代に入ると、知内温泉は松前藩の歴代藩主にも親しまれる湯治場として発展した。寛文5年(1665年)には、九代城主松前志摩守高広公の奥方が入湯した記録も残っている。 松前公はその後、湯守を置いて温泉の発展を図ったとされ、第二代湯守三重郎から第十一代八太郎に至るまで、その系譜が続いた。 宝永元年(1704年)には、福島村の中島弥平治が湯倉神社の小祠を建て、薬師如来などを祭祠したという。 その際に奥方が手植えしたとされる薬師杉は、樹齢500年余り、幹周り4メートルにも及んだが、第二次大戦中に献木され、現在はその切り株が残るのみである。
明治時代に入ると、1894年(明治27年)に佐藤弥惣右衛門が温泉の権利を買い取り、現在の知内温泉旅館を創業した。 以来、湯守の伝統は受け継がれ、現在は17代目がその役割を担っている。 このように、知内温泉は開湯から約800年という長い歴史を持ち、その間、湯治場として人々に利用されてきた。 温泉の裏手には、長い年月をかけて湯華が石化し、巨大なドームを形成している場所があり、浴槽や浴室の床にも湯華が幾重もの段を成している様子は、この湯の悠久の歴史を物語っている。
「最古」が宿る理由
知内温泉が「北海道最古」と称される根拠は、その開湯時期が鎌倉時代の宝治元年(1247年)に薬師堂が建立されたことに遡るとされている点にある。 「大野土佐日記」の記述から、元久2年(1205年)にはすでに温泉が発見されていたと伝えられており、これは800年以上の歴史を持つことを意味する。
この「最古」という認識が定着した背景には、いくつかの要因が考えられる。一つは、古文書による記述の存在である。「大野土佐日記」や最上徳内の記録は、伝説の域を出ない温泉の起源に、具体的な年代と人物を結びつける役割を果たしている。 明確な文献が残されていることで、その歴史性が強く裏付けられていると言えるだろう。
次に、湯治場としての長い伝統が挙げられる。松前藩主が入湯し、湯守が置かれるなど、古くから人々が療養目的で利用してきた歴史は、単なる湧出地ではなく、文化として温泉が根付いていたことを示唆する。 北海道内では湯治文化がさほど有名ではないが、道南地域では早くから温泉が利用され、湯治文化が根付いている。 知内温泉は、その中でも代表的な存在であった。
また、豊かな自然湧出の源泉も、その歴史を支える重要な要素である。知内温泉には5本の源泉があり、いずれも敷地内から自然噴出(自噴)している。 源泉温度は65℃と高温で、豊富な湯量を誇り、すべての湯船で源泉かけ流しという贅沢な利用形態を可能にしている。 枯れることなく湧き続ける湯は、800年以上にわたり、この地で人々の営みを支えてきた。 これらの要素が複合的に作用し、「北海道最古の湯」という認識が形成され、現在に至っているのだ。
他の湯と歴史を比べる
知内温泉が「北海道最古」と称される一方で、北海道には他にも長い歴史を持つとされる温泉地が複数存在する。例えば、札幌の奥座敷として知られる定山渓温泉は、慶応2年(1866年)に美泉定山によって開湯されたと伝えられている。 函館の湯の川温泉もまた、1653年(承応2年)に発見され、松前藩主の病を癒やしたという伝説を持つ、北海道三大温泉郷の一つである。 登別温泉は安政5年(1858年)開湯とされ、北海道一泉質が豊富と謳われている。
これらの温泉は、いずれも150年以上の歴史を持ち、地域を代表する温泉地として発展してきた。しかし、知内温泉が「最古」と称されるのは、その開湯が鎌倉時代にまで遡るという明確な記録と伝承があるためである。 定山渓や登別、湯の川が近代に入ってからの開湯とされるのに対し、知内温泉は中世の記録にその名が見える点で一線を画す。
「最古」という称号は、単に年代の古さだけでなく、その温泉がどのようにして発見され、どのように人々に利用されてきたかという「物語」の深さによっても形作られる。知内温泉の開湯伝説には、砂金掘りの荒木大学や薬師堂の建立といった具体的な要素が結びついており、それが人々の記憶に残りやすい。 他の地域にも古い温泉伝説は存在するが、知内温泉のように古文書に裏付けられた記録が残されている例は稀である。
また、北海道における温泉文化の形成という視点から見ると、知内温泉が位置する道南地域は、本州との交流が早くからあったため、湯治文化が根付きやすかったという側面も考えられる。 豊富な源泉が自然湧出する知内温泉の地の利が、長きにわたる湯治の歴史を育んだと言えるだろう。このように、他の温泉との比較を通して、知内温泉の「最古」という位置づけが、単なる数字の比較ではなく、歴史的背景や文化的な厚みに裏打ちされたものであることが見えてくる。
現代に息づく湯の文化
知内温泉は現在、一軒宿である「知内温泉旅館」がその湯を守り続けている。 敷地内から自然湧出する5本の源泉は、すべて源泉かけ流しで利用されており、その豊富な湯量は変わらない。 泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉で、内湯には肌に良いとされる明礬泉と塩泉が強い「上の湯」と、鉄分が濃く体を芯から温める「下の湯」がある。 特に「上の湯」は美肌効果が期待され、お湯だけを汲みに来る地元の人もいるという。 混浴の露天風呂も設けられており、夏にはホタルが舞い、冬には雪見風呂が楽しめるなど、四季折々の自然の中で湯浴みが可能である。
近年、知内温泉旅館は伝統を守りつつも、新たな試みも行っている。2024年6月には、温泉とサウナを融合させた「呼吸の間」というハイブリッドサウナ施設がオープンした。 これは、源泉の熱エネルギーをサウナ室に直接掛け流し、自然な蒸気で湿度を保つという独自のシステムで、息苦しさが少なく心地よい空間を実現している。 サウナで生まれた熱と蒸気は、掛け湯や立ち湯、寝湯へと循環利用され、最終的には外部通路の融雪にも活用されるという、地域資源を最大限に生かした持続可能な温浴空間である。 この新しい取り組みは、高齢化が進む利用客層に加えて、若年層やサウナ愛好家など、幅広い客層へのアピールを狙ったものだ。
知内町自体も、北海道最古の温泉という観光資源を活かし、地域活性化に取り組んでいる。 周辺には知内牡蠣やニラといった特産品があり、温泉旅館の食事でもそれらが提供される。 北海道新幹線の木古内駅からバスで約25分という立地であり、アクセスも比較的容易になっている。 古くからの湯治文化を受け継ぎながら、現代のニーズに応える形で進化を続ける知内温泉は、単なる歴史遺産ではなく、今もなお息づく地域の文化として存在している。
記録と伝承の狭間で
知内温泉を巡る「北海道最古」という問いは、単に年代の先後を問うだけでなく、歴史の記録と人々の伝承がどのように結びつき、ある土地のアイデンティティを形成していくのかという、より大きな視点を示している。知内温泉の場合、「大野土佐日記」という古文書に記された記述や、薬師堂建立の具体的な年代が、その「最古」の根拠として提示されている。 これは、口承だけでなく、文字情報によって裏打ちされた歴史の重みとして受け止められているのだ。
しかし、「最古」という言葉が持つ響きは、時に他の温泉との比較や競争を生み出すこともある。北海道には他にも古い歴史を持つとされる温泉が点在するが、知内温泉が「最古」として広く認知されているのは、その歴史が具体的に語り継がれ、現代の観光資源として活用されているからだろう。温泉の歴史を語る上で、単なる物理的な湧出時期だけでなく、それがいつ、どのような形で人々の生活や文化に組み込まれ、記録として残されてきたかという点が重要になる。
知内温泉の事例は、温泉という自然の恵みが、いかにして地域の歴史や文化の核となり、世代を超えて受け継がれていくかを示唆している。湯治場としての機能、松前藩との関わり、そして現代における新たな試みとしてのサウナ導入。これら一つ一つの出来事が、800年という長い時間の流れの中で、知内温泉の物語を織りなしてきた。その湯は、今日も変わらずこんこんと湧き続け、訪れる人々に過去と現在をつなぐ静かな体験を提供している。

ゆーたなかお
キュリオす開発者。ひとり編集長。
旅と食が好き。どこにでもいます。
参考
- 知内温泉「ユートピア和楽園」|北海道知内町town.shiriuchi.hokkaido.jp
- 知内温泉の歴史|知内温泉shiriuchionsen.com
- 知内温泉|800年の歴史を持つ北海道最古の温泉hokkaidokanko.info
- 知内温泉(北海道:知内温泉旅館)|地・温泉|JR東日本jreast.co.jp
- 知内温泉 | 開湯800年を誇る北海道最古の温泉shiriuchionsen.com
- 知内温泉 知内温泉旅館の基本情報/温泉、施設、設備、アメニティ、ご利用案内等 - 日本秘湯を守る会 公式Webサイトhitou.or.jp
- 知内温泉|温泉スポット|【公式】北海道の観光・旅行情報サイト HOKKAIDO LOVE!visit-hokkaido.jp
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