2026/6/4
柏のニューオークボ、麺が美味しいパスタの秘密

柏のニューオークボについて詳しく知りたい。パスタの麺が美味しい。
キュリオす
柏のニューオークボは、日本のパスタ黎明期から続く伝統製法と素材へのこだわりで、麺そのものの美味しさを追求している。デュラム小麦の中心部のみを使用し、低温でじっくり乾燥させることで、モチモチとした食感と小麦本来の風味を引き出している。
柏の地で「ニューオークボ」という名を耳にしたとき、その多くは、一口食べれば忘れられない、独特の食感と風味を持つパスタの記憶と結びつくのではないだろうか。一般的なスーパーマーケットで見かけるパスタとは一線を画し、その麺には確かな主張がある。なぜ、柏という街で、これほどまでに麺そのものが美味いと評されるパスタが生まれ、そして現在まで造り続けられているのか。その問いの根源を探ると、日本におけるパスタ製造の黎明期まで遡る、長い歴史と、ある職人のこだわりが見えてくる。
ニューオークボの歴史は、1982年に千葉県柏市で創業した時点に始まるが、そのルーツはさらに半世紀近く遡る。日本で初めてパスタを工業的に製造したと言われる「大久保マカロニ」が、1933年に大久保仙七によって設立されたのだ。大久保仙七は、まだパスタが日本で一般的でなかった時代にその味に感銘を受け、「西洋うどん」を自らの手で作り出すことを決意したという。彼は本場イタリアの伝統的な製法にこだわり、量よりも質を追求する姿勢でパスタ製造に取り組んだ。
しかし、時代は移り変わり、安価な輸入パスタが市場を席巻するようになると、原料と製法にこだわり続けた大久保マカロニは経営難に陥り、1982年に工場を閉鎖するに至る。その時、大久保マカロニに勤務していた伊藤敏光が、大久保仙七の志と技術を受け継ぐべく、新たに「ニューオークボ」を柏市藤心に設立した。社名に「大久保」の名を残したのは、創業者への敬意と、その技術を継承していく決意の表れであった。 こうして、日本のパスタ製造のパイオニアが築いた「イタリア伝統のパスタづくり」は、柏の地で新たな命を得ることになる。
ニューオークボのパスタが「五感で楽しめる」と評される美味しさの秘密は、「イタリア伝統のパスタづくり」と「素材の持ち味を活かす」という独自の「伝統×素材製法」にある。 その鍵となるのは、素材の選定から製造工程に至るまで、徹底して熱の発生を抑えるという手法だ。
まず、原料にはカナダ産の専用デュラム小麦の中心部分、胚乳部のみを贅沢に粗挽きしたセモリナ粉を使用する。 外皮の混入を極力抑えることで雑味のない、小麦本来の美しい淡黄色と豊かな風味を持つパスタに仕上がる。 この良質なデュラム小麦に塩と水を加え、時間をかけて丁寧に練り込む工程では、生地にダメージを与えないよう温度管理が徹底される。 これにより、でんぷんなどの添加物に頼らず、グルテンが自然に活性化し、独特のモチモチとした食感が生まれるのだ。
さらに、成形にはイタリアから輸入した最新鋭のパスタマシンと、特注のブロンズダイス(口金)を用いる。 このブロンズダイスで押し出された麺の表面には、細かい凹凸が形成される。このわずかなざらつきが、ソースとの絡みを飛躍的に向上させる。 乾麺の場合、その後の乾燥工程も特徴的である。大手メーカーが効率を重視し熱風で短時間乾燥させるのに対し、ニューオークボでは50度以下の低温で48時間以上かけてじっくりと乾燥させる。 この低温長時間乾燥によって、小麦の旨味が麺に凝縮され、茹でた時に初めて熱が加わることで、炊き立てのご飯のような独特のモチモチ感と香りが引き出されるという。
日本においてパスタは広く普及しているが、その多くは安価で手軽さを重視した製品だ。茹で時間の短縮や100gずつの結束など、利便性に焦点が当てられ、パスタそのものの味の追求は後回しにされがちである。 しかし、ニューオークボのパスタ製造は、そうした現代の効率化とは対極にある。イタリアのパスタ法では、乾燥スパゲッティの原料はデュラム小麦のセモリナ粉100%であり、成形は押し出し製法でなければならないと厳格に定められている。 日本の規格が比較的緩やかな中で、ニューオークボはこのイタリアの伝統的な定義を堅守しているのだ。
これは、国内の量産品がコストとスピードを優先し、デュラム小麦以外の小麦粉をブレンドしたり、乾燥工程を短縮したりするのとは明確な違いがある。 ニューオークボの製法は、手間と時間がかかり、結果としてコストもかかる。しかし、その「手間暇」こそが、小麦本来の風味と食感を引き出し、「塩とオイルだけでも美味しく食べられる」とまで言われるパスタを生み出す源泉となっている。 多くのイタリア料理店や本格志向のシェフがニューオークボのパスタを採用し、業務用生パスタでは全国シェアNo.1を誇るという事実 は、このクラフトマンシップがプロの現場で高く評価されている証左だろう。
現在、株式会社ニューオークボは千葉県柏市の高柳に本社と工場を構え、その敷地内には工場直送のパスタやパスタソース、イタリア食材を扱う直売所が併設されている。 ここでは、定番の乾燥パスタから生パスタ、さらにはお得なアウトレット商品までが販売されており、一般の消費者も気軽にその品質を手に取ることができる。
近年では、柏という地域との結びつきをより強める動きも見られる。柏市をホームタウンとするプロスポーツチームと連携した「アスリートパスタ」の販売や、地域のイベントでの活用、ふるさと納税の返礼品としての提供など、パスタを通じて柏の魅力を発信する取り組みが展開されている。 2024年には最新鋭のイタリア製パスタマシンを導入した新工場が稼働し、月産650トンものパスタを製造する能力を持つに至った。 これは、伝統的な製法を守りながらも、現代のニーズに応え、より多くの人々に高品質なパスタを届けるための挑戦だと言える。
柏のニューオークボのパスタは、単に「美味しい麺」という感想で終わらせるには惜しい、奥行きを持った存在である。その美味しさは、デュラム小麦の中心部を選び抜く素材への厳しさ、生地に熱を加えないよう徹底された練り込み、ソースを絡ませるためのブロンズダイス、そして何日もかけて行われる低温乾燥といった、一見すれば「当たり前」に見える工程の裏側に、膨大な時間と熟練の技術が積み重ねられていることの証だ。
市場に溢れる多様なパスタの中で、ニューオークボが選んだ道は、効率や利便性とは異なる、素材の生命力を最大限に引き出すという、ある種の「不便さ」を追求する道だった。その結果として生まれる、一口ごとに小麦の香りが広がり、噛むほどに弾力を感じる麺は、私たちが普段意識することのない「パスタとは何か」という問いに対する、柏からの明確な答えでもある。それは、食の根源にある手間と時間を再認識させる、静かな発見を促すものだろう。

ゆーたなかお
キュリオす開発者。ひとり編集長。
旅と食が好き。どこにでもいます。