2026/6/2
御岩山で目撃された光の柱、その正体はカンブリア紀の鉱物?

御岩山にある御岩神社について教えて欲しい。すごくいいところだった。
キュリオす
茨城県日立市の御岩神社は、縄文時代から信仰の対象とされてきた。宇宙飛行士が目撃したとされる「光の柱」の正体は、約5億年前の地層に含まれる紫外線で発光する紅柱石である可能性が指摘されている。太古の地層と現代の科学が交錯する神秘的な山を紹介する。
茨城県日立市に鎮座する御岩神社は、その創建時期さえ定かではないほどに古い歴史を持つ。縄文時代晩期の祭祀遺跡が発掘されていることからも、この地が太古より信仰の対象であったことが窺える。日本最古の書物の一つである『常陸国風土記』(721年)には、御岩山の古称である「かびれの高峰に天つ神鎮まる」と記されており、古代の人々がこの山を神聖な場所として認識していたことがわかる。
中世に入ると、御岩山は山岳信仰の霊場として修験道の拠点となり、神仏習合の思想が深く根付いた。江戸時代には、水戸藩初代藩主である徳川頼房が山形県の出羽三山を勧請し、御岩山を水戸藩の国峰として位置づけた。以来、徳川光圀をはじめとする歴代藩主が常例として参拝する祈願所となり、その信仰は藩を挙げて篤いものだったという。 境内には国常立尊をはじめ、伊邪那岐尊、伊邪那美尊、大国主命など、合計188柱もの神々が祀られており、その多様性から「日本全国ほぼすべての神様にお参りできる」とまで言われるようになった。 明治維新の神仏分離令によって仏教的な要素は一時的に排除されたものの、平成に入り大仁王門などが再建され、再び神仏習合の文化が色濃く残る珍しい神社として、その姿を取り戻しつつある。
御岩山を巡る「光る石」の伝説は、宇宙飛行士の証言に端を発する。アポロ14号の宇宙飛行士エドガー・ミッチェルが宇宙から地球を観測した際、日立市の山中から一本の強い光の柱が立ち上るのを目撃し、その地点を調べたところ御岩山付近であったという。また、日本人初の女性宇宙飛行士である向井千秋氏も同様の光を見たという逸話が語り継がれているが、彼女自身の公式な発言や公的記録で確認されたものではないとされる。
この「光の柱」の正体として、御岩山の山頂にある「立石」と呼ばれる石柱が挙げられることが多い。これは磐座(いわくら)の一種で、古くから神が降臨する場所として信仰されてきた巨石群の一部である。
一方で、この神秘的な現象には地質学的な側面からの説明も存在する。御岩山を構成する「御岩山変成流紋岩類」には、粗粒の紅柱石(こうちゅうせき)が含まれており、これが紫外線によって発光することが明らかになっている。 この変成流紋岩は、カンブリア紀(約5億年前)に形成された日本最古級の地層の一部であり、御岩山一帯が持つ地球史レベルの古さが、その神秘性をさらに深めている。 宇宙からの光の柱が「都市伝説」として整理されることもある中で、実際に紫外線で光る鉱物が山中に存在する事実は、伝説と科学が交錯するこの地の魅力を具体的に裏付けるものだ。
御岩山の「光る石」や「光の柱」の伝説が、単なる神秘主義に留まらないのは、その地質学的背景が日本列島形成の根源にまで遡る点にある。御岩山を含む日立市周辺の多賀山地は、約5億年前のカンブリア紀の地層から成り立っており、これは日本で最も古い地層の一つとされている。 登山道の途中には「ここまで白亜紀」「これよりカンブリア紀」といった地層の境界を示す看板が設置されており、訪れる者は地球の悠久の歴史を肌で感じることができる。
こうした極めて古い地層の上に、縄文時代から人々が祭祀を行ってきた痕跡が重なることは、他の多くの霊山とは異なる御岩山独自の特色と言えるだろう。たとえば、富士山や立山といった火山性の霊山が噴火という劇的な自然現象を背景に信仰を集めてきたのに対し、御岩山は、より静かで根源的な「大地の古さ」そのものが信仰の基盤となっている。また、出羽三山のように修験道の中心地として発展した山も多いが、御岩山の場合は、神仏習合の歴史を持ちつつも、その根底には日本列島最古の地層への畏敬の念が息づいている。
日本各地に存在する磐座信仰も、巨石への畏敬が中心にあるが、御岩山の「光の柱」伝説は、それが宇宙からの視点という現代的な要素と結びつき、さらに地中の鉱物の発光という科学的根拠が加わることで、多層的な意味合いを持つ。単なる巨石崇拝を超え、地球の奥底から宇宙へと繋がるような、壮大なスケール感を持つ信仰の形が、この地には存在しているのだ。
今日の御岩神社は、その古くからの歴史と神秘性から「国内最強のパワースポット」として、県内外から多くの参拝者が訪れる場所となっている。 境内には、樹齢600年以上とされる御神木の「三本杉」がそびえ立ち、その迫力は訪れる者を圧倒する。 この杉には天狗が棲んでいたという伝説も残り、古くからの信仰の深さを物語っている。
御岩山への登拝ルートは整備されているものの、表参道は急峻で本格的な山登りとなるため、登山靴などの準備が必要だ。 参道を進むと、中腹には奥宮である「かびれ神宮」が鎮座し、さらに山頂へと向かう道中には、奇岩怪石が点在する。 山頂からは緑豊かな丘陵や太平洋を一望でき、その広大な景色は登拝の苦労を忘れさせるものがある。
近年、SNSなどを通じた情報拡散により、御岩山の人気は一層高まっている。しかし、それに伴い、危険な場所に立ち入るなどして滑落や遭難といった事故も増加傾向にあるという。 神社側は入山時間や立ち入り区域に関する注意喚起を行い、参拝者には安全な登拝を呼びかけている。古来からの信仰の地が、現代において新たな形で注目される中で、その自然環境と信仰の対象をいかに保全し、次世代へと繋いでいくかは、この地にとっての重要な課題となっている。
御岩山で語られる「光る石」の物語は、単一の事実によってのみ構成されているわけではない。宇宙からの視点という現代的な伝説、実際に紫外線で発光する鉱物の存在、そしてカンブリア紀にまで遡る地球の歴史が、複雑に絡み合い、この地の神秘性を形作っている。
かつて人々が「神が宿る」と感じた巨石は、現代の科学によってその一部が「光る鉱物」として解明された。しかし、その科学的解明が、かえって古代からの信仰の根源にある「見えないものへの畏敬」を浮き彫りにする。約5億年前の地層から湧き出るような、地球そのものの生命力、あるいは宇宙と大地が呼応するような感覚は、知識として知るだけでは得られない、現地で立ち尽くしたときに初めて訪れる体験なのだ。御岩山の「光る石」は、単なる物理現象でも、単なる伝説でもなく、太古から現代まで、人間が感じ取り、解釈し続けてきた「聖なるもの」の多様な姿を映し出す、一つの象徴と言えるだろう。

ゆーたなかお
キュリオす開発者。ひとり編集長。
旅と食が好き。どこにでもいます。