2026/7/2
塚口の駅前で40年以上愛される「タント」と「アングル」の秘密

塚口のタントとシチュー&カレー アングルについて詳しく知りたい。
キュリオす
阪急塚口駅前の「塚口さんさんタウン」開業と同時にオープンしたスパゲティ専門店「タント」とシチュー&カレー専門店「アングル」。40年以上変わらぬ味と専門性を追求し、地元に根付いた「塚口のソウルフード」と呼ばれる二店を訪ねた。
塚口の駅前に根付いた味
阪急塚口駅の改札を抜けて南側へ進むと、駅前商業施設「塚口さんさんタウン」が視界に入る。この一角に、創業から40年を超える二つの店が並び立つ。一方はスパゲティ専門の「タント」、もう一方はシチューとカレーの専門店「アングル」だ。それぞれ異なる料理を提供するが、どちらも長年にわたり地元の人々に親しまれ、「塚口のソウルフード」とまで呼ばれることもある。なぜこの二つの店が、半世紀近い時を超えて、特定の場所でこれほどまでに支持され続けているのか。その背景には、単なる懐かしさだけでは語れない、それぞれの専門性と、この街が持つ独特の食文化が横たわっている。
さんさんタウン開業と「洋食」の系譜
「タント」と「アングル」が産声を上げたのは、共に1978年(昭和53年)のことである。この年は、阪急塚口駅前に「塚口さんさんタウン」が開業した年と重なる。両店はこの商業施設の誕生と同時に、その一階に店を構えた。 「タント」の創業者である米田健氏は、ホテルや飲食店での経験を積んだ後、各国で料理や歴史、文化を学んだ人物である。 当時、東京で流行し始めていたスパゲティが関西でも広がる可能性を見据え、スパゲティ専門店として開業を決意したという。当初は8坪9席という規模で夫婦二人での船出だったが、1991年には現在の場所に移転し、13坪25席に拡大している。 一方、「アングル」もまた、創業者がホテルで経験を積んだとされる欧風カレーとシチューの専門店として、同じく1978年に開店した。 どちらの店も、開店当初から「新鮮な素材とその持ち味を大切にする」という共通の理念を掲げ、飾り立てない、内容重視の料理を追求してきた。 この創業の経緯は、単に駅前の利便性に乗じただけでなく、当時発展途上にあった塚口という街の食文化を形成する一翼を担ったことを示唆している。
専門性と「当たり前」を追求する手間
「タント」と「アングル」の長年の人気は、それぞれの料理に対する揺るぎない専門性と、その「当たり前」を追求する手間暇に支えられている。 「タント」の看板メニューは「なすとベーコン(なすのミートソース)」である。 これは創業者の米田氏が、イタリア料理の前菜「なすのグラタン」から着想を得て考案した一品だという。 茄子とミートソースという組み合わせは、今でこそ珍しくないが、当時の日本人の味覚に合わせ、油やベーコンの旨味を吸わせた茄子と、ほんのりガーリックが効いたシンプルな味付けが、客の評判を呼び定着した経緯がある。 他にも「紅ズワイガニのトマトソース」や、創業時から提供される「えびのトマトソース」など、具材の持ち味を生かしたスパゲティが並ぶ。 注文を受けてから強火で一気に仕上げる調理法は、雑味を生まず、素材の旨味を引き出すための工夫である。 「アングル」の厨房では、月に1.5トンもの牛肉が使われるという。 そのうち3分の1から4分の1は、出汁を取るためだけに用いられ、エキスを搾り取った後は捨てられるという贅沢な工程を踏む。 この出汁が、欧風カレーの深いコクとソースの土台を築いている。看板メニューの一つ「特選ビーフカレー」には、このこだわりの出汁をベースに、スプーンで簡単に潰れるほど柔らかく煮込まれた牛肉がごろごろと入る。 また、もう一つの人気メニュー「ポークしめじカレー」は、大ぶりのしめじと柔らかなポークがルーに溶け込み、しめじ特有の臭みを感じさせない旨味のみを引き出しているという。 一般的なカレー店で提供される福神漬けの代わりに、ゴマ油で調理したザーサイが添えられる点も、この店の個性を際立たせている。
街の記憶と日本の洋食店
「タント」と「アングル」が塚口で長きにわたり愛されてきた背景には、日本の洋食文化が持つ特性と、地域に根ざした店のあり方がある。日本の洋食は、明治時代以降、西洋料理を日本人の味覚や食文化に合わせて独自に発展させてきたジャンルである。カレーライスやスパゲティ、シチューなどはその代表格であり、家庭料理としても外食としても、多くの人々に親しまれてきた。 例えば、東京・銀座の「煉瓦亭」が明治時代にカツレツをアレンジして「ポークカツレツ」を生み出し、後に「とんかつ」として国民食に定着させたように、日本の洋食店は常に「日本人にとってのおいしさ」を追求してきた歴史がある。また、大阪には明治から続く老舗の洋食店が数多く存在し、それぞれが独自のソースや調理法を確立し、世代を超えて愛され続けている。これらの店に共通するのは、単に流行を追うのではなく、特定の料理に特化し、その味を磨き上げてきた点である。 「タント」や「アングル」も、こうした系譜に連なる。スパゲティやカレーといった、日本の食卓に深く浸透した洋食を専門とすることで、幅広い客層に受け入れられてきた。派手さはないが、丁寧に作られた「当たり前の味」は、訪れる人々にとって「いつでもそこにある」安心感と、幼い頃から慣れ親しんだ「街の味」としての記憶と結びついていく。これは、特定の街の発展とともに歩み、その街の住民の日常に溶け込むことで、単なる飲食店を超えた存在となる日本の洋食店の普遍的な姿と言えるだろう。
カウンター越しに見る変わらぬ日常
現在、「タント」は平日でも満席になることが多く、ランチ時には行列ができるほどの人気を保っている。 店内は昭和の雰囲気を残すレトロな造りで、カウンター席が中心のため、一人でも気軽に立ち寄れる雰囲気が特徴だ。 厨房の様子が見えるカウンター席は、調理の音や香りが直接届く特等席であり、客は料理が作られる過程を間近に見ることができる。 「アングル」もまた、カウンター16席のみの店内は、ヨーロピアンな純喫茶のような趣がある。 カレー百名店に選出されるなど、その味は広く評価され、地元住民だけでなく遠方からの客も訪れる名店として知られている。 テレビで紹介される機会も多いという。 注文から提供までの時間が短いことも、この店の特徴である。 忙しいランチタイムでも、客を待たせない工夫が凝らされている。 両店ともに、創業から40年以上が経過しているが、その営業形態や提供される料理、そして店内の雰囲気は大きく変わることなく受け継がれている。これは、時代に合わせて大きく変化するのではなく、自分たちの「当たり前」を磨き続けることで、結果的に多くの客に選ばれ続けている証左と言える。塚口さんさんタウンという商業施設自体が地域に密着し、住民の生活の一部となっているように、これらの店もまた、塚口という街の日常風景の一部として、その存在感を放ち続けている。
塚口の食文化が語るもの
塚口の「タント」と「アングル」は、単なる飲食店としてではなく、地域に根ざした食文化の担い手として存在している。両店が「塚口さんさんタウン」の開業と同時に店を構え、以来40年以上にわたり同じ場所で営業を続けている事実は、この商業施設が単なる消費の場ではなく、地域住民の生活に深く結びついた「街の顔」であったことを示している。 それぞれの店が提供するスパゲティとカレーは、日本の洋食文化の中で普遍的な存在でありながら、独自の工夫と手間暇をかけることで、他にはない個性を確立している。特に、「タント」の「なすとベーコン」がイタリア料理の前菜から着想を得て日本人の味覚に合わせたように、また「アングル」が大量の牛肉から贅沢に出汁を取るように、その専門性は常に具体的な調理法の中に宿る。 これらの店が長きにわたって支持されてきたのは、奇をてらわない「正直な味」と、いつでも変わらずそこにある「安心感」を提供し続けてきたからだろう。それは、目まぐるしく変化する現代において、忘れられがちな「日常の中の確かな価値」を再認識させる。塚口の駅前で、カウンター越しに料理を待つ人々や、昔と変わらぬ味に舌鼓を打つ客の姿は、この街の食文化が持つ静かな強度を物語っている。

ゆーたなかお
キュリオす開発者。ひとり編集長。
旅と食が好き。どこにでもいます。
参考
- 尼崎のスパゲティ専門店「タント」40周年 看板メニューは「なすとベーコン」 - 尼崎経済新聞amagasaki.keizai.biz
- 『アングル』欧風カレー&シチューの老舗【尼崎/塚口】#22|兵庫三菱自動車販売グループhyogo-mitsubishi.com
- 塚口「アングル」の名物ポークしめじカレーを実食!創業当時から愛される老舗カレーの魅力 | あまっぷ(AMAP)amagasaki-amap.com
- 【Angle アングル】塚口〜1987年創業。尼崎の欧風カレーの名店。 : 大阪➡︎福岡カレーステーションcurrystation.blog.jp
- シチュー&カレー アングル | 塚口さんさんタウンsunsuntown.com
- スパゲティ専門店 タント | 塚口さんさんタウンsunsuntown.com
- 阪急塚口で30年以上愛される老舗スパゲッティ専門店「タント」の絶品パスタ5選lemon8-app.com
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