2026/5/22
鹿児島のタケノコ、早掘りの秘密と産地を辿る

鹿児島のタケノコは有名だ。どの辺りで獲れるのか?
キュリオす
鹿児島のタケノコは、島津吉貴が持ち帰った孟宗竹がルーツ。温暖な気候と火山灰土壌、そして全国一の竹林面積が早掘りタケノコを育む。出水市やさつま町などが主要産地だが、後継者不足という課題も抱える。
鹿児島のたけのこを語る上で避けて通れないのは、その主要品種である孟宗竹(モウソウチク)が日本にもたらされた経緯である。一般的に、孟宗竹は江戸時代中期、薩摩藩主である島津吉貴が琉球(現在の沖縄)から持ち帰り、自身の庭園である仙巌園(せんがんえん)に植えたのが始まりだとされている。元文元年(1736年)のことであるという記録も残る。 当時の琉球は中国との交流が深く、そこから孟宗竹が伝わったのだろう。
この二本の竹が、やがて鹿児島全域、そして日本各地へと広がる孟宗竹のルーツとなった。鹿児島という地名自体が「竹篭(かご)の島」に由来するという説も存在するように、古くから竹と人との関わりが深く、神話や地名にも竹にまつわるものが数多く見られる土地である。縄文時代の土器に竹の紋様が残され、弥生時代には竹製の道具が使われていた形跡があるなど、その利用の歴史は古い。しかし、食用として現在のような規模でたけのこが栽培されるようになったのは、この孟宗竹の伝来以降のことであった。
鹿児島県がたけのこの一大産地となった背景には、複数の要因が絡み合っている。まず、温暖な気候が挙げられる。一般的なたけのこの旬は春、3月から5月にかけてだが、鹿児島県、特に北薩地域では、全国に先駆けて10月頃から「早掘りたけのこ」の収穫が始まるのだ。これは、まだ地表に芽を出していないモウソウチクを掘り出すもので、その希少性から高値で取引される。翌年3月まで続くこの早掘りたけのこは、長さ15cmほどで黄金色をしており、アク抜きが不要で刺身でも食べられるほどの甘みが特徴だ。
次に、土壌の条件が重要となる。鹿児島の竹林が広がる地域には、火山灰土壌、特に赤土と呼ばれる肥沃な土壌が多い。この土壌が、たけのこの柔らかい肉質と豊かな風味を育むと言われている。また、鹿児島に竹林が多い理由の一つに、崩れやすい白砂土壌を竹の根が支え、土砂崩れを防ぐ役割があるとも指摘される。つまり、竹は単なる作物としてだけでなく、この地の地質と災害対策においても重要な存在であったのだ。
さらに、全国でも有数の竹林面積を誇ることも、たけのこ生産を支える基盤となっている。県本土に広がるモウソウチクのほか、三島・十島・熊毛地域にはカンザンチク(大名竹)、奄美地域にはマチクなど、多様な竹が県内全域に分布している。この豊富な竹林資源を背景に、鹿児島県はたけのこの収穫量で全国上位(2位または3位)を常に維持しているのである。主要な産地としては、出水市、薩摩川内市、さつま町、姶良市(特に蒲生町)などが挙げられる。中でもさつま町は、市町村単位で全国一の孟宗竹林面積を持つと言われている。これらの地域では、たけのこ専門の農家が竹林の管理に細心の注意を払い、農薬や除草剤を一切使わず、土壌の健康を保つことに努めているという。
たけのこ生産において、鹿児島県は全国的に見ても独特の立ち位置を確立している。収穫量では福岡県が1位、鹿児島県が2位、京都府が3位と、九州地方が上位を占める傾向にある。しかし、鹿児島が際立つのは、その収穫時期の早さにある。多くの地域でたけのこが春の味覚として3月から5月に集中する中、鹿児島では10月から翌年3月にかけて「早掘りたけのこ」が出荷される。この「早掘り」は、単に季節が早いというだけでなく、市場における競争優位性を生み出している。
また、品種の多様性も比較対象となる。全国で流通するたけのこのほとんどが孟宗竹であるのに対し、鹿児島県には孟宗竹の他に、三島村の竹島、硫黄島、黒島で採れる「大名筍(だいみょうたけのこ)」という特異な品種がある。これはリュウキュウチク(琉球竹)の若芽で、アクが非常に少なく、生で食べられるほどの甘みとシャキシャキとした食感が特徴だ。通常の孟宗竹がアク抜きを必要とするのに対し、大名筍はそのまま調理できる点が大きく異なり、高級食材として料亭などで重宝されているという。これは、たけのこ全体に対する認識を一段階ずらす発見と言えるだろう。
歴史的な伝来についても、孟宗竹が日本に渡来した経路は京都説と鹿児島説があるが、仙巌園の石碑に記された島津吉貴による植栽の記述は、鹿児島が日本における孟宗竹の導入地の一つであったことを具体的に示している。この初期の導入が、その後の大規模な竹林の形成と、たけのこ文化の発展に繋がったと見ることができる。
現在、鹿児島県は竹林面積が日本一であり、たけのこ生産量でも全国上位を維持している。しかし、この豊富な竹林資源は、一方で課題も抱えている。たけのこ生産者の高齢化と後継者不足は深刻であり、適切に管理されない「放置竹林」が増加しているのが現状だ。放置された竹林は、他の植物の生育を阻害したり、土砂災害のリスクを高めたりする可能性が指摘されている。
こうした状況に対し、鹿児島県は「竹の郷創生事業」を推進し、たけのこ生産の振興と竹林資源の有効活用を目指している。新規生産者の確保・育成のため、「たけのこ生産者養成講座」も開催されている。また、収穫されたたけのこを無駄なく利用するため、水煮パックや缶詰などの加工品開発も進められ、通年でたけのこを味わえる取り組みも行われている。特に「早掘りたけのこ」は、その品質の高さから高級料亭向けの食材として市場に供給され、地域の特産品としての価値を高めている。
放置竹林を資源として捉え直す動きもある。伐採した竹材を竹チップや竹炭、竹紙などの製品に加工する試みも行われており、中には障害者就労支援と結びつけることで、新たな雇用を生み出す事例も報告されている。さつま町では、たけのこ掘りツアーや竹細工体験など、観光と結びつけたイベントも開催され、竹林の魅力を多角的に発信している。
鹿児島のたけのこを巡る旅は、単に食文化の一端に触れるだけではない。そこには、温暖な気候と火山性の土壌がもたらす地の恵み、そして、その恵みを最大限に引き出し、時に課題と向き合いながら育ててきた人々の手仕事が息づいている。早掘りたけのこに見られる収穫時期の戦略は、自然条件を読み解き、市場のニーズに応えようとする知恵の表れである。また、孟宗竹だけでなく大名筍のような固有の品種が存在することは、この土地の多様な生態系と、それを受け入れてきた歴史の深さを示している。
竹林がもたらす豊かな産物と、それが抱える放置竹林という現代的な課題は、表裏一体の関係にある。たけのこを掘り、竹林を管理し、新たな利用法を探る営みは、この地の自然環境と経済、そして文化が織りなす循環そのものだ。鹿児島を訪れた時、竹林が風に揺れる音に耳を傾けてみれば、その風景の奥に、たけのこを育む人々の静かな熱意を感じ取ることができるだろう。

ゆーたなかお
キュリオす開発者。ひとり編集長。
旅と食が好き。どこにでもいます。