2026/6/8
白山の複雑な地形は、火山と氷河の歴史が作り出した

白山はどういう地理的な成り立ちなのか?詳しく教えて欲しい
キュリオす
白山は、約40万年前からの複数の火山活動、山体崩壊、そして氷河や周氷河作用によって形成された。古い火山体の侵食、新しい火山の噴火と崩壊、氷河による地形彫刻が重なり合い、現在の複雑な姿を生み出した。
石川、福井、岐阜、富山の四県にまたがりそびえる白山は、その名の通り、冬から初夏にかけて白い雪をまとった姿で知られる。日本三霊山の一つに数えられ、古くから人々の信仰を集めてきたこの山は、遠くから眺める優美な姿とは裏腹に、その成り立ちを紐解くと、いくつもの激しい地質学的変動の記憶を内包していることがわかる。なぜ、この山はこれほどまでに複雑な表情を持つに至ったのか。その答えは、火山の噴火と、悠久の時をかけた侵食、そして氷河の作用が織りなす壮大な物語の中にある。
白山の形成は、約30万年から40万年前という地質学的には比較的新しい時代に始まったとされる。その活動は大きく三つの時期に分けられる。最も古いとされるのが約42万年前から32万年前の「加賀室火山」、次いで約13万年から6万年前の「古白山火山」、そして約4万年前以降の「新白山火山」である。これら複数の火山体が重なり合うようにして形成されてきたのだ。 特に「古白山火山」は、現在の最高峰である御前峰の北側、地獄谷付近に標高3,000メートル級の成層火山体を築いていたと推測されている。しかし、長い年月の間に激しい侵食を受け、そのほとんどが削り取られてしまい、現在では周囲の尾根の一部にその痕跡を残すのみとなっている。 白山火山の直下には、ジュラ紀から白亜紀にかけて形成された手取層群の砂岩や泥岩、礫岩、そして白亜紀から古第三紀初期の濃飛流紋岩といった、さらに古い時代の基盤岩が横たわっている。 火山活動が始まる以前から存在したこれらの地層が、白山の骨格を形作っているのである。
現在の白山の主要な峰々、すなわち御前峰(2,702m)、大汝峰(2,684m)、剣ヶ峰(2,677m)は、「新白山火山」の活動によって形作られた。これらの峰は一見すると一体に見えるが、それぞれに異なる年代の噴火と侵食の歴史を持つ。 約4,500年前には、新白山火山の山頂部が東側へ向かって大規模に崩壊する出来事があった。 この崩壊が、現在の御前峰に見られる馬蹄形に開いた山稜を形成したと考えられている。その後、崩壊した凹地の中で約2,900年前に再び噴火が起こり、剣ヶ峰が誕生した。 剣ヶ峰の稜線が荒々しく鋭い印象を与えるのは、その形成年代が他の峰よりも新しいことによる。 火山活動のダイナミズムを示す証拠は、登山道からも確認できる。例えば、中飯場付近から柳谷の対岸斜面を望むと、噴出した溶岩が冷え固まる際に生じた「柱状節理」が見られる。これは、溶岩が収縮する過程で垂直方向に割れ目ができ、まるで複数の柱が束になったかのような独特の地形を形成したものだ。 また、山頂近くの黒ボコ岩付近には、かつて湖の底であったことを示す丸く磨かれた石が堆積した地層も露出しており、白山の複雑な歴史を物語っている。 さらに、白山の地形形成には氷河の作用も深く関わっている。山頂付近には、過去の氷期に形成された「カール」と呼ばれる圏谷地形が複数見られる。また、氷河が発達するほどではないが、寒冷な地域に特有の「周氷河地形」も顕著だ。凍結と融解を繰り返すことで岩屑がゆっくりと移動し、「階状土」と呼ばれる階段状の微地形などを形成している。 これらの地形は、現在も活動を続けているものがあると指摘されている。
日本列島には多くの火山が存在し、その多くが活火山として知られる。例えば富士山のような単一の美しい成層火山とは異なり、白山は複数の火山体と、その後の激しい侵食、そして氷河の作用が複合的に絡み合って現在の姿を形成した点で特徴的である。 また、日本アルプスなどに代表される氷河地形が顕著な山々と比べると、白山は火山活動と氷河作用の両方が深く関与している点が際立つ。例えば立山連峰も氷河地形が有名だが、白山の場合は火山噴火による山体崩壊が地形形成に決定的な影響を与え、その後の氷河作用がさらに細部を彫刻したという、より重層的な歴史を持つ。 さらに、白山が属する両白山地は、白山を主峰とする加越山地と、能郷白山を主峰とする越美山地に大別される。 この広大な山域全体が、ジュラ紀から白亜紀にかけての古い堆積岩や流紋岩といった基盤岩の上に、新期の火山噴出物が覆いかぶさる構造を持つ。そのため、白山南西斜面に見られる大規模な地すべりのように、基盤岩の構造が山体の安定性に影響を与える現象も確認されている。 これは、単なる火山活動だけでなく、その下にある地質構造が、山の現在の姿と変化のプロセスに深く関与していることを示唆している。
白山の地質的な成り立ちは、現在の豊かな自然環境と人々の暮らしにも深く結びついている。山頂付近には紺屋ヶ池や油ヶ池など、かつての火口に水が溜まってできた大小七つの火口湖が点在し、神秘的な景観を作り出している。 また、白山は250種もの高山植物が自生する「高山植物の宝庫」としても知られ、その多様な植生は、複雑な地形と気象条件が育んだものだ。 白山を源とする手取川は、豊かな伏流水を石川県白山市にもたらしている。この水はカルシウムを多く含み、カリウムが少ないという特性を持ち、酒造りにおいて穏やかな発酵を促し、米の旨味を引き出すことで、白山特有の酒質を形成する源となっている。 2005年には、この地域で造られる清酒が「GI白山」として日本で初めて地理的表示の認証を受けたが、これは白山の水という自然的要因と、長年にわたる人々の酒造りの技術が融合した結果に他ならない。 一方で、白山は現在も「常時観測火山」として気象庁による監視が続けられている。1659年の噴火を最後に大規模な活動は確認されていないものの、2000年代以降も山頂直下での群発地震が報告されており、その活動は途絶えていない。 山頂付近の万年雪は地球温暖化の影響で減少傾向にあるとされ、自然環境の変化もまた、この山の現代における姿の一部である。
白山が「白き山」と呼ばれるのは、その雪に覆われた姿からだけではない。それは、地質学的時間スケールで見れば、火山活動、侵食、氷河作用といった異なる力が絶えず働きかけ、その姿を変化させ続けてきた、ある意味で「生成途上」にある山だからかもしれない。 古白山火山が侵食され、新白山火山が生まれ、大規模な山体崩壊を経て新たな峰が形成され、さらに氷河がカールや周氷河地形を刻む。その一つ一つのプロセスが、今私たちが見る白山の複雑な地形、豊かな植生、そして麓に恵みをもたらす水脈の源となっている。 この山は、静かにそびえる霊峰であると同時に、地球のダイナミズムをその身に刻み続ける、生きた証拠でもある。その成り立ちを知ることは、単に過去の地質学的な事実を学ぶだけでなく、今目の前にある風景が、いかに途方もない時間と力が積み重なって生まれたものであるかを、改めて認識させる契機となるだろう。

ゆーたなかお
キュリオす開発者。ひとり編集長。
旅と食が好き。どこにでもいます。